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荒木経惟の本
(『アサヒカメラ』1995年5月号、朝日新聞社刊)
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荒木経惟による本が100冊を超えている。94年にはトータル16冊の本を出版、その疾走ぶりに拍車がかかる。中でも目をひくのがそれぞれにユニークな私家版写真集群だが、飯沢耕太郎、伊藤俊治がそろって「荒木本」をしかけているのも気になるところだ。写真と言説の2方向から探る荒木と本の関係!
(※ リードは編集部が加筆掲載したもの)

『センチメンタルな旅』のころから、荒木の写真は愛妻・陽子夫人の存在抜きには考えられないものだった。彼女の死後、驚くべきスピードで量産される写真群、そしてそれらをまとめた写真集は、荒木の「第2ラウンド」を誰の目にも明らかなものにしている(本の半数は夫人の死後出版されている)
 “量産体制”にある荒木の写真集の中でも近年、特に注目すべきなのは彼自身の事務所である Aat ROOM から私家版として刊行された「限定写真集」だろう。これらは、ここ数年の荒木の写真集の中でも最も完成度が高いといえる。
 例えば、世田谷美術館での桑原甲子雄との二人展「ラヴ・ユー・トーキョー」展と同時期に出版された『終戦後』は一見したところ古風な、いかにも「自費出版」の写真集といった体裁。表紙をめくると、まず大きく「1973.8.16→9.3」と撮影の日付であろう数字が飛び込む。「ラヴ・ユー・トーキョー」展の開催の準備のため古い写真を整理していて、コンタクト・プリントの束を発見、それをそのまま写真集にしたものだという。20年の歳月を経て、貼り付いてしまった写真がはがされて、白い下地が露わになったさまが生々しい。かつての東京という、古い記憶のなかの都市の写像が都市そのものの記憶の集合体となって迫るリアリティがここにはある。
 そして R. フランクへの献辞で始まる『私日記』。タイトルと作家名、そしてオートデートの日付だけの黒地の表紙が美しい。日付の入った横位置のモノクロ写真が淡々と続く。ヌード、街頭のスナップ、空、東京の風景など、荒木の十八番といった写真群だ。奇妙に魅力的な、優しく重い本だ。
 『墨汁綺譚』は、『S&M スナイパー』誌での連載をまとめたもの。写真の上に墨汁をたらし、あるいは書き込んで荒木的な“エロトス”の世界を闊達に描き出している。墨汁は、ときには猥褻さを強調するための検閲であり、また涙、血、愛液、精液であるかのように工夫されている。
 これら私家版写真集はどれもとても丁寧なつくりで、荒木がいかに「写真集」を大切にしているのかがよくわかる。彼の活動が初期のゲリラ出版からアナーキーな雑誌メディア、そして写真集といった印刷メディアを通じて支持を獲得していったことを思えばそれも故ないことではないし、また、彼の真価はこうした編集過程を経た表現メディアにあるのだろう。
 さて、疾走する荒木を追いかけるようにして飯沢耕太郎が荒木論をまとめたので触れておきたい。飯沢の『荒木!』はこの「表現機械」と化した特異な写真家の軌跡を追い、その膨大な写真と言動から「荒木経惟」を解読し、私たちの現在へと照射させようと試みている。本書は、詳細なデータをもとにした伝記的記述と、著者一流のレトリックによって澱みなく、非常に読みやすい。けれども、この不気味に肥大した「表現機械」を考える時に、その流暢さがかえって逆に、対象に迫りつつはぐらかされるような物足りなさを感じさせなくもない。ともあれ、巻末の「全著作集成」も含め“荒木入門”として手ごろな一冊だ。
 一方、伊藤俊治責任編集で、荒木が発表してきた文章、発言などを集成した『アラ〜キズム』は、荒木本人の言葉が綴られたものの決定版だ。30年にわたる彼の発言を総覧すると、ギミックに満ちているかに思われたそれらの多くが、現実のこの世界を転倒させ、虚実のあわいを顕在化させる装置として実にまっとうなものであることに驚かされる。ジェイムス・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』ばりの言語実験のようなこれらの文章はそれだけでも十分に楽しめる。
荒木経惟著『私写真』
AaT ROOM/初版:1994.04.01/コードなし(私家版)/4,000円

荒木経惟著『終戦後』
AaT ROOM/初版:1994.08.16/コードなし(私家版)/3,000円

荒木経惟著『墨汁綺譚』
AaT ROOM/初版:1994.11.03/コードなし(私家版)/5,000円
飯沢耕太郎著『荒木!』
白水社/初版:1994.xx.xx/ISBN4/2,200円
伊藤俊治責任編集/荒木経惟著『アラ〜キズム』
作品社/初版:1994.xx.xx/ISBN4/2,800円