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ロザリンド・クラウス著『オリジナリティと反復』+ ヴィクター・バーギン著『現代美術の迷路』
(『アサヒカメラ』1995年6月号、朝日新聞社刊)
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待望久しい写真批評・理論書がついに翻訳刊行された。ここで紹介する2冊はタイトルからもわかるとおり、おもに現代美術批評が中心だが、モダニズムの芸術理論を批判的に乗り越えて展開される豊饒な議論は「写真論のニューウェイヴ」とでもいうべき性格をもっている。とはいえ、これは例えば「写真の芸術性」だとか、「写真」と「美術」の対立関係といった議論に与するものではなく、むしろそうした旧弊な構図を捏造する制度的コンテクストを批判・解体するものである。
 『現代美術の迷路』は、イギリス出身で現在はカリフォルニア大学で教鞭を執っている現代美術作家・批評家のヴィクター・バーギンによる評論集。本書は「芸術」「表現」「作品」「自律性」等の、私たちが近代の「芸術」について自明と考える概念を再審に付し、それらが錯綜したコンテクストのなかで成立する場面での制度的権力構造を明らかにするとともに、芸術と現代の文化理論との接合によってそれらを解体・構築する方途をさまざまな角度から論じている。それは、モダニズム美学における「芸術のための芸術ファイン・アート」――むろん、私たちはこれを近年の「自立した写真ファイン・フォトグラフィー」という言説と参照しながら読むべきだろう――というプログラムと、それを「超えた」と称しつつ従来の概念的枠組みを温存したままの「ポストモダニズム」の双方を通底する「アートというイデオロギー」を否定する。コンセプチュアル・アートについて述べている〈「政治の表象化」という観念ではなく、表象の政治学への一貫した関心〉(強調原文)とは、そのまま本書の主要なモチーフであるといえるだろう。
 一方、80年代美術の主要な潮流であるシミュレーショニズムを牽引した雑誌『オクトーバー』の編集委員であるロザリンド・クラウスの『オリジナリティと反復』は(狭義の)モダニズム批評から出発しながらも、それにとどまらない理論の構築に向かった彼女の代表作。
 〈批評のテクストの持つ意義は、ほとんど全面的にその方法メソッドにある、と主張することができるだろうか〉と、批評対象の「内容」を重視する歴史主義、実証主義に対して挑発的に問いかける序文に始まり、芸術作品を一個の有機体としてではなく、複数の差異の体系からなる構造として見ようとする姿勢は、ベンヤミン以降のオリジナルとコピーについての議論をさらに推し進めて整理したうえで、芸術作品の起源としてのオリジナリティという考えを破棄する。それは絵画、彫刻、写真、インスタレーション、文学といったさまざまな領域について論じる本書を、すでに新しい古典たりうるものとしているといってよいだろう。
 両者は構造主義以降の現代思想の成果をよく吸収し、芸術の脱神話化のためにそれを実践的に用いる点で共通している。これらの刊行を機に日本の写真批評に新しい波が訪れることを期待したい。
ヴィクター・バーギン著『現代美術の迷路』
室井尚+酒井信雄訳/勁草書房/初版:1994.xx.xx/ISBN4/本体価格:3,399円
ロザリンド・クラウス著『ロザリンド・クラウス美術評論集 オリジナリティと反復』
小西信之訳/リブロポート/初版:1994.xx.xx/ISBN4/本体価格:5,974円