小野一郎写真展「ウルトラバロック――隙間恐怖の過剰装飾」 (『アサヒカメラ』1995年8月号、朝日新聞社刊) |
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「ウルトラバロック――隙間恐怖の過剰装飾」と題された写真展が東京・久が原のガレリア・キマイラで開催中だ。(7月28日まで。会期終了後も同ギャラリー別室で常設展示。なお。新潮社から写真集『ウルトラバロック』も同時発売)。 この展覧会は写真家の小野一郎さんによるもの。自ら一級建築士でもある小野さんは、モダニズム的な近代建築のあり方に疑問を感じ、なおかつ現代建築界の一潮流であるヴァナキュラリズムの土俗・民俗の「本来性」へと回帰する傾向にも馴染めず世界中に建築行脚の旅を続けて「ウルトラバロック」に出会ったのだという。 この耳慣れない、奇妙な響きのある言葉は、かつて「大航海時代」と呼ばれ西欧列強が植民地を拡大した時期にメキシコにもたらされたバロック様式が、現地の民衆文化と融合し、開花したもの。ヨーロッパのキリスト教圏では正統に対する異端と目され、一時代様式でしかなかったバロックが、かの地での宗教的・文化的混淆のなかで特異な発展を遂げて現在も伝統的に社会のなかに息づいている様子は、比類なくキッチュなその相貌とともに圧倒的な迫力を漲らせている。 展覧会場ではこれら「ウルトラバロック」の建築の内部やファサードを4×5のカメラで細部まで精緻に撮影した写真作品のほか、作者が現地で買い求めた陶製の食器や、キリスト教の祭祀物、「死者の日」(日本のお盆にあたる祭りの日)の仮面等が、まるでバザーのように一緒に展示されメキシコの民衆文化を再現している。もともと表面を埋め尽くす二次元的な装飾の追求として発展した「ウルトラバロック」だが、写真集の印刷ではきわめて平板に見える(それはそれでマンダラのようで面白い)。それがここでは、写真のマチエールと、これもやはりメキシコ製だという額の存在感がマッチして奇妙な空間体験を味わえるようになっている。 写真展の愉しさを再確認できる、そんな展覧会だ。 |