クロード・ランズマン監督『SHOAH』+ D. ライナルツ & K. G. v. クロッコフ著『死の沈黙』 (『アサヒカメラ』1995年9月号、朝日新聞社刊) |
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ある「出来事」を語ること、そのことが衝撃的なひとつの出来事=事件として、いま私たちの前に姿を現している。ナチス・ドイツのヨーロッパ・ユダヤ人絶滅政策(第三帝国の用語では「ユダヤ人問題に関する最終解決」)を主題としたクロード・ランズマン監督の映画『SHOAH[ショアー]』がそれだ。ヘブライ語(ただし表記はラテン文字によるアルファベット表記)で「絶滅、破滅」を意味する題名の、9時間半にもわたるこの作品は、製作に11年の歳月を費やして1985年に発表された。それから10年を経た今年、地道な上映運動が実り、ようやく日本でも公開され、いまも全国各地で上映が続いている。 冒頭、ヘウムノ(クルムホーフ絶滅収容所のあった土地の名前)を舞台としたエピソードが長い字幕によって語られてゆく。そして小舟の上で歌うシモン・スレブニクの歌(彼はヘウムノの生存者のひとりだ)。映画はこのようにして始まる。 全編が絶滅収容所から生還したユダヤ人、ナチス将校、収容所周辺に暮らすポーランド人、収容所へと犠牲者たちを運ぶ列車の機関士、ワルシャワ・ゲットーの生き残り等々、当時の体験者へのインタヴューで構成され、しかもその間、戦争当時の資料映像や「効果的」な映画音楽の類は一切使われていない。あくまでも証言者が現在において語ること=記憶を再現すること、そのことによって「最終解決」という絶滅政策――戦争の終結によって中途で挫折したとはいえ、それは彼/彼女たちがいた、という「痕跡」すら残さない徹底した仕方で遂行された――に抵抗する「記憶」という闘場[アリーナ]を現出させる。ときには仮借ないほどに執拗なインタヴューによって証言を引き出し――たんに「出来事」の痕跡を記録するのではなく、それすらも抹消された「痕跡」(痕跡の痕跡?)をたどることで――語りえない「出来事」を語ろうとする営為が続く。ランズマン監督がいうように、彼/彼女たちは「死者たちのために語り、死者たちの代弁者となる」のだ。 ここには「歴史修正主義者[リヴィジョニスト]」たちにみられるニヒリズム(周知のように、雑誌『マルコポーロ』廃刊の原因となった西岡論文はその無邪気なコピーにすぎないだろう)は微塵もないことがはっきりとみてとれる。P. ヴィダル=ナケの著書にならって言えば、この作品は「記憶の暗殺者たち」への抵抗であるといえるだろう。 そしてもうひとつ。D. ライナルツと K. G. v. クロッコフによる『死の沈黙』の刊行も忘れてはならない。これは、ダッハウ、トレブリンカ、アウシュヴィッツ等、25カ所に及ぶナチス・ドイツ強制収容所跡を、87年から93年にかけて撮影した279点の写真による大部の写真集だ。 題名が示すとおり静寂をたたえたモノクロームの画面を、ただ沈黙だけが支配している。もはや誰一人、ここにはいない。ただ事物だけがそこにある。それらは何も語らない。そこで何があったのかさえも。だが、しかし。 「なかなか見分けられませんが、ここでしたね。/そう、ここですよ、人を焼いたのは。/大勢の人がここで焼かれました。/そう、まさにこの場所です。(『SHOAH』から) この沈黙は、まさしくこうした「証言」と共振している。 |
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クロード・ランズマン監督『SHOAH』 1985年/フランス/カラー/9時間30分 ※ なお、この映画のテクストとして、クロード・ランズマン著『SHOAH』(高橋武智訳、作品社、1995年6月刊、本体価格2,800円)がある。また、鵜飼哲+高橋哲哉編『「ショアー」の衝撃』(未來社、1995年6月刊、本体価格1,800円)は、この映画を理解するための絶好のテクストである。 |
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ディルク・ライナルツ(写真)+クリスティアン・グラーフ・フォン・クロッコフ(テクスト)『死の沈黙』 石井正夫訳/大月書店/初版:1994.xx.xx(戦後50年記念国際共同出版)/ISBN4/本体価格:7,800円 1994年ドイツ・コダック賞、出版美術協会賞受賞 |