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新宿西口「路上写真」
(『アサヒカメラ』1996年7月号、朝日新聞社刊)
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今年1月13日、「動く歩道」の設置工事を名目とした、東京都行政による新宿西口4号通路の野宿労働者への一方的な退去勧告、そして同じく24日に行なわれた強制排除を契機とする一連の「出来事」は、何ら根本的な問題解決がなされないまま、現在に至っている。しかし、住処を奪われた住民たちは、新宿西口インフォメーションセンター周辺を一大拠点とするコミュニティを形成し、その規模は日々、拡大している。忽然と現れた段ボールハウスの集落は壮観だが、それだけではない。そこに暮らす人々の生活がじかに闘争そのものとして繰り広げられる現場となり、マスメディアの報道が途絶えがちな今も、そのたたかいは波紋を広げながら継続しているという事実を、擦過者たちの意識下に刻み続けている。
 「私たちはホームレスではない。野宿労働者だ」
 段ボールに掲げられたこのメッセージは、乞食、浮浪者、ホームレス等々、さまざまに変遷しつつ常に「市民社会」の側からの一方的な、抜きがたくあからさまな差別を含んだ呼称を否定して、自らを表象する権利を主張している。それは、かねてから所謂「寄せ場」で培われてきた経験から地域性を超えた普遍的な問題を剔出し、さらに近年、活発に議論されている「カルチュラル・スタディーズ」の思想的課題とも共振しながらトランスナショナルな交通の場である都心のまさしく中枢へと奔流し、その通時的な連関と共時的な広がりのなかで、あらたな市民社会の「発明」を胚胎しているのだ。そして、ここではもうひとつ、写真が重要な役割を担っている。
 おもに支援ヴォランティアの手によって撮影された写真が段ボールに貼られ、キャプションを添えただけの簡素な、字義どおりのインスタレーション(仮設展示)であるこの「写真展」は毎日、行なわれている。それは、行政側の見解や警察発表を流通させることが常態のマスメディアの報道とは違う「事実」を公表するとともに、写真の社会的機能への問いかけとその可能性を拓くものでもあるだろう。オルタナティヴな社会をつくる表現――対抗的知性=表現の実践としてのアクティヴィズム――もまた、ここに生まれつつある。