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ピエール・ブルデュー&ハンス・ハーケ著『自由−交換』
(『アサヒカメラ』1996年9月号、朝日新聞社刊)
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『ディスタンクシオン』や『芸術の規則』等の相次ぐ翻訳刊行によって既によく知られる存在となったフランス社会学の巨魁、ピエール・ブルデュー。そして、ジャーナリスト以上にジャーナリスティックな、とさえ形容される作品を継続的に発表し、政治/資本による美術(界)の支配状況を明らかにする芸術家のハンス・ハーケ。
 この二人の対談集である『自由−交換――制度批判としての文化生産』は、「抵抗の詩学」とでも言うべき豊かな内容を持つ刺激的な書物だ。本書では芸術作品に対する検閲、「メセナ」に代表される企業の文化戦略、唯美主義ないしは芸術至上主義的な美学への偏向による芸術作品の社会性(社会と芸術との生きた関係)の喪失、等々の芸術/文化をめぐるさまざまな今日的課題が、ときに愚直なまでの誠実さで語られている。あくまでも事実に即して、具体的かつ豊富な事例と周到なコンテクストの分析によって私たちの「現実」の隠された規範としてのイデオロギー装置を明らかにすること。それはこの二人の著者のこれまでの仕事に一貫しているものである。そして、それは同時に「表現の自由」や「芸術/文化の社会的責任」という観念的になりがちなこの種の議論――「訳者あとがき」でも触れられているが、95年に東京で開催された「国際メセナ会議」の席上で、大浦作品問題の行政側の当事者である富山県知事や、川崎市市民ミュージアムの大榎作品検閲事件の展覧会スポンサー企業の会長がこれらの出来事に一切言及することなくパネラーとして参加・発表していることはその一例だろう――において必要不可欠な態度であることは言うでもない。
 パブリック・アートの一大モニュメントとして知られる「ファーレ立川」では、かつて在日米軍を対象とした赤線地帯だった場所の(ネガティヴな)公共的記憶パブリック・メモリーを隠蔽する装置として芸術が利用され、また、中止された「都市博」の代理イヴェントとして東京港湾地域でこの8月に開催される展覧会では、幾人ものアーティストが行政側の圧力とのたたかいを強いられているという。このような状況のなかでの本書の出版は、非常に時宜を得たものだ。ひろく読まれるべき一冊と言えるだろう。
ピエール・ブルデュー&ハンス・ハーケ著『自由−交換――制度批判としての文化生産』
コリン・コバヤシ訳/藤原書店/初版:1996.05/ISBN4/本体価格:2,800円