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Linkage to Ring Ring
(『インパクション』105号[闘争的音楽案内]、1999年8月、インパクト出版会刊)
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5月29日、夜。最近ではすっかり「だめ連系の店」として知られるようになった、早稲田大学文学部正門前にある「あかね」店頭では、ビール片手に思い思いに路上へと座り込んだ20人ほどの人々の輪ができていた。ドアを開け放した店内からは、ときおり音源を替えながら、いくつもの演奏がフル・ヴォリュームで流れてくる。
 いささか奇妙で、近所迷惑であったかもしれない(?)この路上の会合は、この日を含め各地で開催されているはずの「リング・リング・アラウンド・ザ・ワールド」を紹介し、このフェスティヴァルでこれまでに演奏をしてきたミュージシャンの音源を聴こうというものだった。「リング・リング」と、それを主催するベオグラードの独立系ラジオ局「B92」の「支援」目的もある。
***
そもそもの始まりは5月12日に送られてきた一通のEメイルだった。神戸の内橋和久氏(アルタードステイツ、グラウンド・ゼロ、ファンタスマゴリア等のギタリスト。これらのバンドやソロ、国内外のミュージシャンとの多数のコラボレイションを持つほか、「フェスティバル・ビヨンド・イノセンス(FBI)」のオーガナイズや「イノセント・レコード」レーベルの主宰者でもあるイクスペリメンタル・ミュージックのキィ・パースン)のライヴ情報の最後にあった、「緊急企画 Ring Ring Kobe 戦火のベオグラードへ」というフェスティヴァルの案内に興味を惹かれた。

「神戸では被災した学生とベオグラードの学生が双方を招き交流してきたり、その後も宝塚では学生達からアメリカと NATO による空爆への抗議表明が行われ、また政府弾圧から B92 を守ろうとするムーヴメントに関わる長田のコミュニティ局『FM わいわい』があります。どの活動も、民間のレベルで、国際紛争の犠牲となるのは一般市民であるという認識に基づいた、崇高な活動であると敬意を感じます。
 私達は神戸で「ビヨンドイノセンス」という非商業音楽のフェスティバルやアクティヴィティを主催してきたのですが、Ring Ring からの呼びかけに答え、そして上記の貴重な活動にもならい、「Ring Ring Kobe」を緊急企画したいと計画しています。
 Ring Ringの開催予定が5月29日30日で、「できればこの日に準じてほしい」とのことなので、基本的に30日をめどに、開催にこぎ着けたいのですが、一人でも多くの人に知ってもらうために、少しでもオープンな環境で実現するために、ご協力を要請したく存じます。
 政治的な活動ではなく、あくまで安全と自由を剥奪された人々への支援のアクションです。(以下略)
早速メイルと電話で連絡をとり、これを自分が主宰するウェブ・サイトでも紹介したい旨を伝え、快諾を得た。そして、そのやりとりのなかで、札幌で長く「新しい音楽」の紹介を続けてきたNMAの沼山良明氏が、以前より予定されていた市内在住の即興ピアニスト、宝示戸亮二氏のソロ・コンサートを急遽「連携ライヴ」として行なうことを知り、そちらとも早急に連絡をとりつけ、さらに B92 関連の情報をあらためて収集する作業にもとりかかった。
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B92 については、セルビア当局の情報統制に抗して体制/反体制を問わず独立した報道を続けている独立したラジオ放送局がベオグラードにあるという話を、以前にもヘアート・ロフィンクを通じて知ってはいた。幾度かの当局側による妨害や放送禁止措置に遭いながらも、一貫した姿勢を崩すことなく活動を継続しているその放送局に興味は抱いていたものの、自分でそうしたアクセスを試みることになるとは思ってもみなかったというのが正直なところだった。しかし今回の「リング・リング」では、日本では比較的リスナーの少ない(と思われる)「新しい音楽」の担い手たちの音源や動向を伝えることで何らかの接点を見出すことはできないだろうかと漠然と考えた。
 私自身もこれらの動きに同調した小さな集まりをつくろうと考えたのもそうしたなりゆきからだった。そして一方でメイルの挨拶文にもあるような「政治的な活動」ではないという一言が、「政治」と「文化」を切り離して考えることをよしとする従来どおりの思考へと収斂されるのではない回路を見出す必要性を強く感じてもいた。リスナーであるという立場から「音楽を聴く」ということを今一度捉え直し、そこから他者へと繋がってゆく道筋を見つけること。そして、こうしたミュージシャンやオーガナイザーたちの動きを紹介するくらいのことは可能だろう、というのがとりあえずのアイディアだった(なお、こうした「支援」が NATO の「人道的オペレーション」の裏返しとはなっていないか、また相手の状況をよく知らずに「連帯」を示すことが運動的な貧しさによるものではないか、といった提起をある人から受けた)
***
この日、ゲストで来て貰った平井玄氏は、B92 や「リング・リング」についてはよく知らない、と前置きした上で、パラドックス・トリオなどユーゴスラヴィアからの亡命者たちの音楽について(なお、この話の大筋は『アンボス・ムンドス』2号の彼の連載で読むことができる)、それからジョン・ゾーンの『マサダ』などを例に「民族」や「歴史」といったものの虚構を暴いていく音楽の闘争についての話が、店のお客さんやスタッフ、それからたまたま通りかかって輪の中に加わった人たちとの談笑を交えながら進められた。こうした「音楽の地政学」とでもいうべき議論は、直接に「リング・リング」と関係ないとはいえ、「音楽」を聴くという私たちの日常的な営みをたんに受動的ではない反省的な行為――むろん、そうした音を聴くことの「快楽」は手放さないまま――へと注意を促すものだったろう。この時には、のべ30人ほどが入れ替わり立ち替わり路上に座り込んで討論し、その合間にいくつかのウェブ・サイトから出力した B92 関連のファイルが回し読みされていた。
 デイヴィッド・ディヒーリ氏も後から加わり、今度は彼から B92 の活動と現在のユーゴの状況について話をしてもらう。午前0時を廻り、近隣への配慮から店内へと引き揚げてからは、彼が取材し撮影した『ImperfecTV』(以前「パーフェク TV」で放映された番組のディレクターズ・カット版)のヴィデオを観ながら、参加者がおのおの興味を持ったことを質問するというかたちとなった。
 その場の流れにまかせて話題が拡がっていく一夜の「カフェ」で、何か「解決」を見出そうとすることよりも、そこに居合わせた人々が情報を共有していくことができたことは収穫といえるだろう(無論、そこに留まってよしとする訳にはいかないが)。また、こうした会話の中で出た、日本のインディペンデント・ミュージシャンたちの音楽をCDやMD、テープで B92 に送るという案は、ささやかなものではあるが今後の活動を作っていくという意味でもその意味は小さくないように思う。
 ここから何ができるのか、はっきりとしたヴィジョンがある訳ではない。けれども神戸と札幌でのライヴの終了後、「新しい音楽は生まれましたか?」という問いかけに力強く「イエス」と応えたミュージシャンたちの傍らで、一歩を踏み出すことができないということはありえるだろうか。

(この原稿は当初、内橋氏と沼山氏に呼び掛けそれぞれのレポートを掲載するつもりで打診していたものの、筆者が私事に追われ約束を果たすことができなかった。両氏および読者にお詫びします)
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関連サイトのアドレス(※ 2004.04.07 付記:初出誌掲載当時のものです)

HelpB92:http://helpB92.xs4all.nl
FreeB92:http://www.freeb92.net/

内橋和久ホームページ:http://www.bekkoame.or.jp/ro/bonbon/
NMAホームページ:http://members.xoom.com/_XOOM/nma_sapporo/index.html
カフェ・ジャンクション:http://www1.odn.ne.jp/~cas20850/Omni-Trax/

HelpB92 OSAKA, JAPAN:http://www.gpod.com/Graphicchi/hb92/